MVには「補足説明」と「解釈を広げる」ふたつのつくり方がある
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くいしん twitter.com/Quishin
2018年秋に行われた、大川直也の個展『NAOYA OHKAWA EXHIBITION 2018』。
大川直也が絵画、映像、写真、文章と、個人で幅広い表現活動を続けている中で、約10年の間、一緒に作品をつくり続けてきたミュージシャンが、FINLANDS・塩入冬湖である。
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【1/4】「宇宙服の頭のとこが800万したから買えなかった」FINLANDS・塩入冬湖x大川直也
【2/4】MVには「補足説明」と「解釈を広げる」ふたつのつくり方がある
【3/4】FINLANDS『LOVE』のジャケットは「わかっちゃいるけどやめられない」?
【4/4】出来上がった映像にあとから音楽をつけたFINLANDS「BI」のMV
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全4回のうち第2回である今回は、『BI』のジャケットの制作をしていく過程の話と、MVを撮影することについての話が展開される。
MVの監督は2パターンの視点で制作をする人がいる。それがタイトルにもある「曲の補足説明をするタイプの人」と「曲に対して別の解釈とか別の目線を与える人」。
大川直也は後者のタイプで、特にFINLANDSの場合は「歌詞にすべて書かれているため、補足説明をする必要がまったくない」という話が印象的だった。
言うべきことは言う、でも揉めない
くいしん
これまで、仲悪くなったり、揉めたりとか。そういう時期ってなかったんですか?
大川直也
まったくない。
塩入冬湖
一度もない。
大川直也
ちょっとピリっとすることすら、まったくないです。
塩入冬湖
ないんですよ。ジャケットや映像をつくるときに、私が「今回はオレンジがいいです」と言って、大川さんが「白がいい」って言ったら、それは白がいいんですよ。絶対に。
くいしん
なるほど。
塩入冬湖
宗教じみた話ですけど、アートワークは、彼が言ったものが一番よくなると決まってるんですよ。
くいしん
ほう。
塩入冬湖
ひとつの作品において私は音楽をつくるわけじゃないですか。で、アートワークを全部任せてて、もし私がこっちがいいと思ったとしても、彼が出してきた案のほうが絶対に美しくなるっていうことが今まで何度も証明されているんです。
私はそこに関してはなんにも意見しません。出された選択肢に対して「こっちのほうがいいですね」は言いますけど、彼が出してきたものに対してはすごく信頼をおいておりますので。
くいしん
へー!「ここはちょっとオレンジがいいっすわあ…」みたいなことは言わない?
△『BI』FINLANDS
大川直也
正直に言いますと、それはなくはないですよ。
今回『BI』のジャケットをつくって、ジャケットは最初提案したときに完璧な案が出たねってなりました。最終的に、中身も僕がつくっていくので、歌詞カードをつくってそれも送って、「写真もすごくいいです」って言ってくれた。
僕はその他の盤面とかジャケットの裏側とかもすべてやってるんですけど。その中に帯があるじゃないですか。その帯を最初、黄色で出したんですよ。そしたら、「黄色っすか?」ってなったんです。
言われて、改めて自分で見てみると「絶対黄色じゃなかったわ」っていう。だから調子に乗っちゃってるんですよ。「黄色イカしてるわ!」「クールなジャケットに黄色の帯イカしてるわ!」って調子に乗ってるんですよ、僕自身。
くいしん
客観視できていない状態っていう。
大川直也
そうです。「イカしてるわ!」「逆にいいわ!」みたいな。「逆にいい」って、ありえないので。「逆にいいもの」なんてないんで。
塩入冬湖
そうそう。黄色を出してきてくれて、「えっ、黄色…?」って思いました。考えたんですけど、このジャケット、真ん中の発光体が美しいので、そこにすべての集中力を向けたいと私は思っていたんです。
黄色だと「黄色がきれいだな」ってなっちゃうんですよ。グレーのがよくないですか?って言ったら、グレーにしてくれました。
大川直也
つまり、なんにも言わないって決めてるとか、「あまり言えないな」って感じの空気がぬるっと流れていることはないわけです。ちゃんと言うときは言う。
MVをつくるようになったきっかけ
くいしん
はい、わかりました。
ここでMVの話に移ろうかなと思うんですけど。これまではいわば“グラフィックデザイン”という領域のお話。ジャケットだったり歌詞カードだったり、ロゴもつくっているという話でした。
そこから今度は、「ミュージックビデオをこの人にお願いしよう」となったタイミングがあるかと思うんですけど、そこの経緯を聞いていきたいです。
大川直也
ジャケットをやっていって、信頼関係を築いていった中で、僕がビデオカメラを買ったからです。
塩入冬湖
あはは(笑)。「使ってみたいぞ!」っていう。
大川直也
「買ったぞ、買ったっていうことは?」みたいな感じで。
塩入冬湖
一番最初に、私が前やっていたビトリオルというバンドのMVをつくってもらったんですよね。「ロンリー」という曲の。
大川直也
それがね、お蔵になりまして。
塩入冬湖
お蔵入りしまして。それで世に出ることはなく、私も15秒くらいしか見たことないんですけど。
大川直也
僕、当時、付き合ってた彼女とディズニーランドにいて、レーベルの方から電話がかかってきて「ちょっとお蔵で」って言われて、真顔でスプラッシュマウンテン乗ってて。
塩入冬湖
最悪だなそれ(笑)。なんでお蔵になったかわからないですよね。
大川直也
向こうが期限とかをいまいち言ってこなかったんです。言ってこないからいいだろうと思ってたら、「はい、期限切れー!」みたいな感じで。
塩入冬湖
すごいテキトーな人だったんですよね。
くいしん
ちなみに念のため確認すると、それは今のレーベルではない?
塩入冬湖
違います。今のレーベルはすごく最高なところです。前に所属していたところも、大川さんの作品をすごい気に入っていて、「大川さんにお願いしよう」って自分から言ったのにもかかわらず、なぜかお蔵にするっていう。
それがあって、そこから3年越しくらいで「ゴードン」って曲のFINLANDSの初めてのMVを大川さんに撮ってもらいました。それが念願叶って初めてのMVなんですよね。
くいしん
それはやっぱり、デニーズで「こういうビデオにしよう」みたいな話があるわけですか。
大川直也
あー、あれは話したかも。「ゴードン」はすごく話したと思う。
MVの相談はただの近況報告!?
塩入冬湖
それはすごい話します。
くいしん
話すんですね。じゃあたとえば「ゴードン」だったら、「ここで傘が出てくる〜、なぜならこうで〜」っていう話し合いみたいなものがある?
塩入冬湖
全部あります。
大川直也
いろいろ話していって…。なんだろうね…。なんだろう…。
くいしん
…いや、それをみんな聞きに来てるから。
会場:
(笑)。
大川直也
「ゴードン」は昔なんで。
くいしん
わかりやすいのでいいですよ。話しやすいやつ。
大川直也
それはあの「イエローブースト」って曲なんですけど。あれはえらい夏の風景をすごく生々しく撮ってて、あれは本物の風景なんだけど、すごくフィクション的になってるんです。
くいしん
へえー。
大川直也
歌詞の内容が、実際の夏の風景っていうより、人が勝手につくった夏の風景からはじまる曲なので、ああいう、つくりものっぽい夏の風景を撮りたかった。
塩入冬湖
夏の象徴物ばっかり出てきて。
大川直也
そうそう。できるだけグロテスクで。
くいしん
それはデニーズでふたりで話してるときに「この曲ってこうだよね」ということを、聞いてつくってるわけですか?
大川直也
あんまり聞かないです。
くいしん
聞かない。じゃあ何を聞いてるんですか?
大川直也
曲を聴いて歌詞を読んで、近況を話します。
くいしん
「これは夏の曲だよね」とか。そういう確認はしますよね。
大川直也
いや。
くいしん
しない?
塩入冬湖
毎回アルバムに関しては話すんですよね。曲ごとではなくて、「このアルバムはこういう意味でこういうことを考えてこうやってつくりました」というのをきちっとやっています。
そのあとに「この曲でMV撮ることになりました」って言ったら、本当に今言ってもらったような近況報告して、してもらって、「じゃあこういう感じでどう?」って言われて、そこからいろいろ話していく。
大川直也
こういう感じでどう?とは言います。
くいしん
たとえば?
大川直也
演奏カットと生々しい風景の映像を撮りたいんだよね。「こういうイメージがある」という提案はしています。
くいしん
なるほど。「クレーター」だったら、月みたいなものを被ってるじゃないですか。
大川直也
「クレーター」って曲があるんですけど、MVをあとで観てもらえばわかるんですけど、月を被ってます。
くいしん
そういうのはどこまで話して制作に着手するんですか。「男が月を被ってるんだ」っていうのは、話した上でやる?
大川直也
話しました。
塩入冬湖
撮影する日の前の段階で、顔の月の説明をしてもらったんですけど。なんか被ってて編集のときにテクスチャでも載せるのかなって思ってたんですけど、あのMVで被ってるものをつくってきてくれて。
手作りで中がダンボールになっていて、凸凹する粘土みたいなのが貼り付けてあって、色まで全部塗ってあったんです。
それをおじさんにかぶせて、あのおじさんにいろんなところを歩かせて、生きてる中である黄色いものの近くにおじさんを立たせて映像を撮るっていう説明は受けました。
大川直也
あれは、実際に灯りが当たると、本当に三日月が再現できる造形になってます。そういうディティールは話しますね。
曲を消しても楽しめるMVを
くいしん
なるほど。昔からいろんなバンドのミュージックビデオを観ていて不思議だったんですけど。「クレーター」だったらおじさんが月を被ってるわけじゃないですか。
冬湖さんはもちろん、曲を書くときにおじさんが月をかぶってるイメージを最初から持っているわけではないですよね。
塩入冬湖
そうですね。
くいしん
だから…一例を挙げると、僕が今パっと頭に浮かんだのが、BUMP OF CHICKENの「天体観測」のMVでして。あの曲は簡単に言うと、好きな子と天体観測をしたっていう曲じゃないですか(笑)。で、MVを観ると、子どもたちなんですよ。
塩入冬湖
子どもたちですよね。
くいしん
小学生みたいな、小さな男女なんですよ。で、当時、中学生だった僕は「子どものときの話なん? これ」って思ったんです。
何が言いたいかというと、曲だけを聴いたときのイメージと、MVありで聴いたときだと、また違った曲の一面が見えるわけじゃないですか。
それって、つくり手としては、どういう気分なんですか?「私が書いた曲、なんでおじさんが月被ってんねん」ってなるとか。
塩入冬湖
それくらいがちょうどいいです。
大川直也
あはは(笑)。
塩入冬湖
「クレーター」って曲は恋愛のことを書いてる曲なんですけど。「あとをつけてくれないと」とかそういう気持ちで書いてるんですけど、そこにもし男女が喧嘩してとか、いい感じのしゃれた部屋でのシーンのMVになってしまったら、重いし、そのまますぎて。もしそれだったら一度観て、それ以降観ないと思うんですよ。
くいしん
そういうMVめちゃくちゃいっぱいありますよね。
塩入冬湖
あれは、おじさんが月被ってるっていう情報だけでもすごいじゃないですか。「おじさんが月被ってる!?」って思いません? 思いますよね。
で、私たちはコミカルなことしてるわけじゃないですし、ふつうのギターロックバンドとして歌を歌ってるんですけど、そこに月を被ったおじさんが出てくるってなったら、きっと観ると思うんですよね。2回は。
大川直也
「なんでだろう?」って思いますからね。MVを撮る人って2パターンいて、「曲の補足説明をするタイプの人」と、「曲に対して別の解釈とか別の目線を与える人」がいます。
どっちがよい悪いではなくて、作家性だと思うんですけど。僕はたぶん後者ですね。別の解釈とか、僕はこう観ました、というものをつくる。
なぜかというと、FINLANDSは、補足説明をする必要がまったくないんですよ。歌詞にすべて書かれている。女の人が男の人にどう思ってる、っていうのを歌詞で完璧に書いてあるので、それ以上補足する必要がないんですよ。FINLANDSの場合。
くいしん
アニメや漫画が映画化したときに揉めたりすることあるじゃないか。原作者が怒ったりとか。それ的なこととかはないのかなって素朴な疑問としてあって。「この解釈じゃないけど!」って思わないのかなと。
塩入冬湖
ないですね。MVって、私は、映像作品としておもしろいなと思えるものがすごく好きなんです。それが曲の補足である必要とか、歌詞に出てくる単語がものすごく如実に再現されてるものとか、そういうものよりも、音楽を差し引いて映像としておもしろいなと思えるほうが好きで。
MVがずっと流れてる番組あるじゃないですか。中学生のときに、ああいうのを見てて、そう思ったんですよね。なので大川さんはすごく、それをしてくれます。たぶん消音にして映像だけ観ていても、すごく気になるものだと思うんですよね。
>>>明日に続く
FINLANDSのニューEP『UTOPIA』2019年3月6日(水)発売!
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【1/4】「宇宙服の頭のとこが800万したから買えなかった」FINLANDS・塩入冬湖x大川直也
【2/4】MVには「補足説明」と「解釈を広げる」ふたつのつくり方がある