左が大川直也で右が塩入冬湖のアイキャッチ

写真作品を、アートを楽しむ上での選択肢にしたい

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くいしん twitter.com/Quishin

2019年12月14日(土)に、渋谷ギャラリー・ルデコにて行われた「TALK OUTSIDE DENNY Ⅱ」。

これは、芸術家・大川直也の個展、NAOYA OHKAWA EXHIBITION 2019「HUMAN SHAPED LIGHTS」内にて行われたFINLANDS・塩入冬湖×大川直也のトークイベントである。

▼2018年の同トークイベントの様子はこちら
「宇宙服の頭のとこが800万したから買えなかった」FINLANDS・塩入冬湖x大川直也

FINLANDSのアートワークを手がける大川直也と、FINLANDSのソングライターであり、ヴォーカリストの塩入冬湖が打ち合わせと称して、とあるファミリーレストランの窓辺で話しているようなことをお話しする会です。

大川直也が写真、文章、映像、絵画と、幅広い表現活動を続けてきた中で、10年以上にわたり、一緒に作品をつくり続けてきたミュージシャンが、FINLANDS・塩入冬湖だ。

2019年、ふたりは共に、

  • FINLANDSのEP『UTOPIA』(2019年3月6日リリース)
  • 塩入冬湖のソロ作であるミニ・アルバム『惚けて』(2019年7月10日リリース)
  • FINLANDSのライブDVD『FINLANDS”BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO ~』(2019年9月4日リリース)

の3点を制作した。

(聞き手:QUISHINCOM主宰・編集者/くいしん)

2018年に引き続き2回目の開催

── 今年(2019年)も始めていきたいと思います。これ実は、去年(2018年)も同じ3人で、同じ場所「ギャラリー・ルデコ」でやらせてもらっています。

大川直也 
一緒です。

── おふたりが某ファミレスで、いつものようにしゃべっているような雰囲気でやろうという企画です。

塩入冬湖 
FINLANDSの塩入冬湖と申します。

大川直也 
この個展をやっております、大川です。

会場
拍手

── 編集者をやっております、司会のくいしんです。みなさま、お越しいただき、ありがとうございます。冬湖さん、去年は「ライブよりもトークイベントのほうが緊張する」みたいな話もありましたけど。今年はいかがでしょう?

塩入冬湖 
完ぺきに緊張しています。やっぱり、楽器を持ってるって、すごく偉大なことなんだなって思います。

── 今日はギターないですからね。

塩入冬湖 
ギターがないと、こんなにも手持ち無沙汰なんだなと。

── 音もないですしね。直也さんはどうですか?

大川直也 
まったく(緊張は)ないです。

── ちなみに、僕と、この大川直也は兄弟です(笑)。

大川直也 
はい。

── なんの話しましょう?

大川直也 
ええと。今年は、冬湖さんとあんまり会えていないんですよね。だから、「今年は何があったのか」「お互い何をやってきたのか」、まずはそこを確認しておきたいです。

── FINLANDSと大川直也としてつくったものが、いくつかありますよね。

塩入冬湖 
FINLANDSとしては、2019年は、ミニ・アルバム『UTOPIA』と、ライブDVDを出しました。塩入冬湖のソロ作品も一枚出しました。去年のこの個展で展示されていた写真がすごく好きだったので、ジャケットに写真を使わせていただいたんです。

『惚けて』のジャケット

── ミニ・アルバム『惚けて』。そのあたりの経緯から聞いていきましょうか。冬湖さんのソロ作品としては、大川直也作品を使用するのは初めてですよね。

塩入冬湖 
そうですね。初めてなんです。

── どういう経緯で一緒にやることになったんでしょう。

大川直也 
2018年の個展は、同じこの場所で、作品点数は今年よりも断然多かったんですけど。その中にあった一枚をすごく気に入ってくれて、「あれ、使わせてもらっていいですか?」と提案してくれました。ずっと言ってましたよね、その写真のことを。

△『惚けて』塩入冬湖

△『惚けて』塩入冬湖

塩入冬湖 
そうなんです。個展で写真を見た中で、「これがいいなあ」と思って。私がソロ作品をつくるのは3作品目だったんですけど。私が少しずつ、どういうものをつくっていったらいいのかが見えてきて。大川さんと一緒につくるのに相応しいくらいの作品が、今回出来たんじゃないかなと思って。なので今回、大川さんにお願いして、ソロワークも一緒につくれたという感じですね。

── あの写真、どこが気に入っているとかありますか?

塩入冬湖 
パッと見で好きだったのがまずあるんですけど。大川さんと話しているときだったか、何か文章を見たときだったか忘れましたけど、「パンが飛んでいるのか、落ちてきているのかわからない」っていう話があって。

私はもう完ぺきに、「宙に舞ってるな」って思ってたんですけど。観る人によっては、パンが降ってきているように見える。私はそういう風には見えなかったから、ハッとさせられました。それは、私がつくりたかった作品とすごくリンクしていたんです。自分の本意だけではない他意があって、それを誰かが受け取ってくれたという。

── 言われた側はどうなんですか。「これ!」って言われたときに。

大川直也 
『(冬湖さんが)好きそう~』って思いました(笑)。

会場
(笑)。

大川直也 
あれは僕の中では割りと、ストレートな球ではなくて。変化球というか。ちょっと端に逸れるような作品だったんですけど…。ああいうのが好きなんですよね?(笑)。

塩入冬湖 
ああいうのが好きですね(笑)。なんでだろう。大川さんの作品という感じがすごくしますね。

大川直也 
最初から「一緒につくる」となっていたら、たぶんああいうものは出来ないんです。ふたりの間で「パンを投げよう」となったとしても、たぶんパン2つではなくて、パン100枚投げるだろうし。

塩入冬湖 
たしかに(笑)。

大川直也 
「2枚だとあれだよね」っていう。何が“あれ”なのかは全然わからないですけど。

── 今日、僕の中の勝手なテーマとしてひとつあるのが、ガンガン無粋なことも聞いちゃおう、っていうことなんですけど。作品をつくろうと考えたときに、なんで、「パン投げよう」って思うんですか?

大川直也 
もともとパンを投げようと思ったのは「パンが飛んでるのを見たことがなかったから」なんですね…。

会場
ざわざわ

── はっはっは(笑)。

大川直也 
それより少し前の時期に、CGを作品に使わなくなったんです。じゃあ、CGを使わないで、見たことがないものをつくろうとなったら、そういう近いところから、見ていたい(発想したい)なと思って。たとえば、地面に置いてある鏡とか。飛んでるパンとか。食いかけのスイカとか。小麦粉的な何かとか。

── 去年の個展からCGは使ってなかった?

大川直也 
使ってないですね。

── それ以前の作品は、グラフィック作品としてCGが入ったものは結構ありましたよね。

大川直也 
そうですね。FINLANDSで言えば、『ULTRA』のジャケットもそうだし。

△『ULTRA』FINLANDS

△『ULTRA』FINLANDS

大川直也 
あれは、ドレスのところが実はCGなんです。三角をいっぱい書いていたりとか。そのあとの『paper』とかも、リボンは実は合成していて。もとは実写ではあるんですけど、あとからいっぱい切り貼りしてつくってたんです。

△『paper』FINLANDS

△『paper』FINLANDS

塩入冬湖 
『LOVE』にしても、『JET』にしてもそうなんですよね。で、『BI』からは、まったく…科学の力を借りなくなったんですよね。

△『LOVE』FINLANDS

△『LOVE』FINLANDS

△『JET』FINLANDS

△『JET』FINLANDS

大川直也 
科学の力を。

── 科学の力を(笑)。

大川直也 
パソコン上では何もいじってないんです。CGを使わずに、見たことないものってなると、飛ぶパンだったという。パンを投げると、基本的には怒られるじゃないですか。

塩入冬湖 
そりゃそうだ。

── なるほど。「食べ物を粗末にするな」と。

大川直也 
そうそう、だからそれって、やってこなかったことじゃないですか。パン、投げたことないですよね?(会場に問いかける)

会場
頷く

今年の個展は、人物が増えた

── 冬湖さんは、今年は何を思いましたか? 煙とか蛍光灯とか、そういったモチーフは、今年は減りました。

塩入冬湖 
今年はその分、人が増えてるなって思いました。人を光と捉えるとか、光を人間として捉えるだとか。そういう人間を捉えている作品がすごく多いんだなって思いました。去年って、すごく無機質なものに焦点を当てている気がしていて。

大川直也 
去年は、人がまったくいなかったんです。有機物が、カモメだけだったんです。撮る気にならなかったんですよ。

塩入冬湖 
お互い、すごく…いろんな辛いことを抱えている時期でもあって(笑)。

大川直也 
そうそう(笑)。

塩入冬湖 
それがあったので、『BI』のジャケットも、人が登場しなくなったり、いろんな経緯があったんですけど。それを去年見ていたので、今年は人が多いなと。

大川直也 
単純に去年は、人のことを撮る気にならなかったんです。それこそいろんな人に、写真を見せていく中で、「もっと人を撮ったほうがいいよ」という意見をもらったりとか。そういう声がすごく重要なものとして、自分の中にあって

人の外面的な「かわいさ」とか「若さ」とかって、僕は本当に興味がなくて。それとは違う部分での、「人間」というものをしっかりと撮りたかったというのがすごく大きくて。中性的というか。僕としては、「男性か女性か」というのもどうでもよくて。

それでいくと、去年の無機物をいっぱい取り上げていたことと、あんまり変わっていない気が自分ではしていて。

── 「まるっきり生まれ変わっちゃった」ということではないわけですよね。

大川直也 
うん。全然違います。去年の光っている物体とかも、発電元は太陽光だったりしたので。そこの有機物というのはすごく意識していたんですね。実は、モチーフは一緒なんじゃないかとも思っています。

アクリル板を染めてつくった『UTOPIA』のジャケット

△『UTOPIA』FINLANDS

△『UTOPIA』FINLANDS

── 『惚けて』は、もともとある作品をジャケットにしたものです。時間を少し巻き戻すと、3月には『UTOPIA』がリリースされました。おふたりでつくった作品で言うと、これが2019年最初のものなんですけど。

大川直也 
『UTOPIA』は、いつものように「ユートピアって何?」みたいなところから話が始まりました。歌詞に出てくるワードが、割と“口元”がキーワードになっているなと僕は感じたんですね。ウソをついていたりとか、男女のこともそうだし。なので、まず「唇じゃないか」という話になりまして。

塩入冬湖 
大川さんが言っていたのは、「口から入ってくるしあわせ、幸福感」とか、そういうものをイメージしたと話していて。私は逆に、口から出ていくもののさみしさのほうが、感じるなと思っていました。ため息だったりとか、不意に言ってしまった言葉だったりとか。

口から入ってくるしあわせというものに焦点を当てて考えたことが、自分はあんまりなかったんで。結構、それには衝撃を受けました。お互いに全然考えていることが違っていて。そういう意味では、作品から感じたイメージみたいなものはかけ離れているんですけど、合致するものはあったという感じなんです。

大川直也 
いつも通りスムーズでしたよ。

塩入冬湖 
いつも通りスムーズでしたね(笑)。

── 去年聞いたお話を振り返ると、揉めたりとか、喧々諤々やったり、とかは全然ないということでした。『UTOPIA』も、グラフィックっぽいというか。写真の上に、何かCGを乗せたものにも見えると思うんですよ。でもあれって、実際はオブジェじゃないですか。

大川直也 
それはもう、「ホントにありま~す」というお茶目っ気です。

塩入冬湖 
ははは(笑)。あれ、ホントすごいですよ。

── あれはどこなんですか?

大川直也 
渋谷ですね。渋谷のスタジオ。

塩入冬湖 
そこにオブジェを持っていって。

大川直也 
で、マイクスタンドに立てて。マイクスタンドも口に関連しているものなので。

── そっかそっか。あれは、物は何になるんですか。アクリル板?

大川直也 
アクリル板。を、自分で染めています。赤いアクリル板って売ってないんで。

── 自分で染めるというのは?

大川直也 
(ドヤ顔で)アクリル板って、染められるんですよ!

会場
(笑)。

塩入冬湖 
あれはどうやって染めてるんですか?

大川直也 
アクリル板って、服とかの染料に浸けると、染まるんですね。それこそギターが入っているような大きな段ボールに、ビニールを貼って。そこに染料と水を溶いて、一晩二晩くらい、浸けておくんです。そうすると、染まる…って聞いてたんですよ。

ピアス作家さんに相談して、「赤いアクリルをつくるのってどうやるの?」みたいな話をした上で、それをやってみたんですけど。

実家に帰って、庭でその作業をやってました。で、実際にやるじゃないですか。一晩浸けて、出すじゃないですか。バーン!って液体から出したら、真っ透明でしたね。

会場
(笑)。

── えっ?(笑)。噂はなんだったの?

大川直也 
噂は、噂でしたね。…実際のところは、材質が違ったみたいで。アクリルにもいろいろあるらしいんですよ。染まりやすいアクリルもあって。持ってないのかと思うくらい透明でした。で、結局、マニキュアとかにも使える、吹き付けられる塗料で、染めたんですけど。

塩入冬湖 
大川さんは「なんでも言えばつくってくれる」っていう信頼があって(笑)。

大川直也 
規模感が大きくなってくると、周りにスタッフさんが増えたりして、だんだん作家は楽になっていくんですよ。でも、FINLANDSに関してはいつも、誰に頼めばいいのかわからないアイデアが出てくるので(笑)。それはもう『BI』のライトをつくったときも一緒で。あれも手づくりなんですけど。あれをつくってくれる人が見当たらなかったので、自分でつくるしかないっていうことですね(笑)。

△『BI』FINLANDS

△『BI』FINLANDS

── オブジェの話の流れで、『BI』のライブDVDのジャケットの話にいきましょうか。あれも、オブジェがありますけど。どのようにして生まれたんでしょうか。

大川直也 
最初は、DVDなので「文字ベースでいきましょう」みたいな話をしていて。『BI』ツアーのDVDだったので、それがわかるように文字で表現しましょうみたいな話だったんですね。もともとは。で、つくったんですけど。それを作り終えたら、「なんか全然おもしろくないな」ってなっちゃって。

── 誰がですか? 自分が?

大川直也 
はい。「なんでDVDになると文字ベースなんだろう」って急になっちゃって。『BI』と同じ海岸で何か撮影せねばなあって思いましたね。なので、マジの急遽で、海岸で撮影をして。

── ほうほう。で、シンボルですよ。「F」のシンボル。

△『FINLANDS"BI TOUR"~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO ~』FINLANDS

△『FINLANDS”BI TOUR”~16th October, 2018 at Shibuya CLUB QUATTRO ~』FINLANDS

塩入冬湖 
「F」のシンボル…。これに関しては、私は撮影に同行できなくて。あれも手づくりでつくってくれて。あれは、木ですよね?

大川直也 
あれは木製なんですよ。

塩入冬湖 
それに色を塗って。

大川直也 
あれは、木を切って色を塗るだけだと、木のデコボコがそのまま出ちゃうんで。ピアノも木なんですけど、あれってすごくツルツルしてるじゃないですか。あれと同じ塗装です。ピアノ塗装(笑)。

── あれは何が塗ってあるんですか?

大川直也 
分厚い塗料。何度も塗るんですよ。黒のスプレーを20回くらい、塗っては削り、塗っては削り、を繰り返して。一本のスプレーを全部吹き付けて。ヤスリで削って。何度か繰り返したあとに、最終的に銀色で何度か塗って。

── それはFINLANDSサイドにはどんなふうに共有されたんですか?

大川直也 
形が出来た時点で共有しましたね。「こういうのが海岸に刺さりま~す」っていう。で、冬湖さんからも、レーベルの方からも「…わかりました」って来ました。

会場
(笑)。

── 「F」のロゴ自体、このジャケットで生まれたものなわけですよね。

塩入冬湖 
そうです、そうです。

── DVDのリリースツアーの、ステージの後ろのフラッグにもなってましたけど。

塩入冬湖 
もともと、シンボルをつくって欲しかったんですよ。我々は、大事なものを持っていないことが多くて。

── 大事なものを持っていないことが多い?(笑)。

塩入冬湖 
よく「ロゴとかそういうものないの?」って言われていたんですよ。うちのチームって、事務所含め、そういう必要なものが必要だってことを、誰も気づかないんです。

── えっ?(笑)。

塩入冬湖 
だから、気づいた人間が正していくしかなくて。だから、たとえばフライヤーとかグッズをつくるときにも、「なんかみんなやりづらそうにするなあ」と思っていて、そこで「ああ、シンボルとかないんだなあ」と気づいて。だから別で「シンボルをつくりたい」という相談もしていました。

── ああ、なるほど。

塩入冬湖 
で、海岸に刺さっているシンボルがすごく好きで。「じゃあこれをシンボルにさせてください」とお願いしまして。

大川直也 
なので、その立体物をIllustratorで平面に起こして、渡しました。

── 砂浜に刺さっているのを見て、「あっ、これがシンボルだ!」ってなったわけですか。

塩入冬湖 
そうですね。めちゃくちゃカッコいいな!ってシンプルに思って。ラフ画の時点では、実際に出来上がったものを見るまでどうなるかわかっていなかったんで。

大川さんがやっている限りは、このシンボルの基があるんだろうなと思って、使わせてもらいたいなと思ったんです。で、DVDのリリースツアーのファイナルがこないだあったんですけど。

── リキッドルームの。

塩入冬湖 
はい。で、大川さん来てくれて。終わってからあいさつに来てくれたときに、そのシンボルを持ってきてくれて。片手に持っていたんですけど、めちゃくちゃ鋭利で(笑)。「職質とかされたら一発だろうな」と思って。

大川直也 
みなさんがご覧になっているのは、刺さっているものなんですけど。あれ、抜くと長いんですよ。

会場
(笑)。

大川直也 
鋭角で、収束していくまで形をつくってあるんで。埋まっている部分が長くて、大根みたいな感じです。

── そのシンボルを見て、どう思ったんですか?

塩入冬湖 
「めっちゃすっげー!」って思いました(笑)。

会場
(笑)。

塩入冬湖 
私はそのとき初めて生で見たので。ツアーファイナルが終わった直前で、まだ頭の中が混乱している中で。あれを実物でね、みなさんに見ていただける機会があったらいいですね。

大川直也 
今日持ってくればよかったですね。あれと、『UTOPIA』の唇と。あれね、めちゃくちゃ場所をとるんですよ。倒れるんですよ、たまに。

塩入冬湖 
今までのものを並べて展示したいですね。

大川直也 
それやりたいですね。

── 「FINLANDS展」みたいな。じゃあ、あのFのロゴは、今後もシンボルになるわけですね?

塩入冬湖 
はい。そうです! 今後もシンボルとして、すごく使います。

写真作品を4,800円で販売すること

△大川直也公式サイト

△大川直也公式サイト

── ではそろそろお時間となって参りました。直也さん。何かみなさまにお伝えしておきたいことがあるとか。

大川直也 
今回、この場所で作品を販売してるんですけど、4,800円で売ってるんですね。そしたら同業者からめちゃくちゃ怒られまして。

── うんうん。

大川直也 
「安すぎる」と怒られていて、「やめて」ってなってるんですけど。なんでその値段に設定しているかって話しておきたくて。あと、これは今後ずっと続けようと思っているんです。「4,800円でA3のプリントを販売する」ということ

というのも、この中にCDアルバムでもシングルでもいいですけど、買ったことある人、手を上げてもらっていいですか?

会場
(たくさんの人が挙手)

大川直也 
そうですよね。写真かリトグラフか絵を買ったことある人っていますか?

会場
(挙手)

大川直也 
あー、いいですね。結構いますね。写真の人。ここに来てくれてるくらいの方々なので、結構いましたけど。CDアルバムを買ったことがある人に比べると、家に飾るための美術品を買ったことがある人って、1,000分の1とか10,000分の1とかのレベルで、めちゃくちゃ少ないんですよ。

── そうですよね。

大川直也 
マーケットの話とかすると長くなるので割愛しますが、そもそも一般の人が芸術を娯楽として楽しむときの選択肢に「写真作品」は、ないんですよね。なり得てなくて。それこそTwitterとかInstagramで好きな写真家さんをフォローするとか、「この写真素敵!」って人のページを見て、癒やされて楽しいっていうのがあるとか、写真集を買ったことがあるとか、ポストカードを買ったことがあるとか、っていうことは多いと思うんですけど。写真作品を買ったことがある人の割合が本当に少ないと。

── うんうん。

大川直也 
そこを、まず選択肢のひとつにするために、4,800円という、「誰でも買える値段」とは言わないですけど、「誰でも買うかどうか考えられる値段」で売っているんです。基本的に、写真作品は複製が可能なので、美術品的にはレア度としては高くないんですよ。

── なるほど。

大川直也 
でもそこにナンバリングをして、限定枚数を自分で決めて、サインをすることで、写真家の先輩方は価値をどんどん上げていく。それが3億円10億円で売れることが実際に海外で起っているんですけど。海外でなぜ、そういうことが起こるかというと、お金持ちたちが「俺、これに3億円払っちゃったギャグ」なんですよ。

塩入冬湖 
わかりやすい(笑)。

大川直也 
あえてめちゃくちゃな言い方をすると、現代美術とかって「俺、これにお金払うユーモアがあるんだよ」って意味合いで使われたりするんです。海外だと欧米のマーケットにアジアから人が行って、そのままオークションで1億円でみんな作品を買って、そのまま現地の倉庫まで買ってずっとそこに入れておくとか。そういうやり方をしているそうなんですね。

── うんうん。

大川直也 
画家さんだったら、同じ画家さんの絵を10枚1億円ずつで10億円払って買うとすると、その画家さんは「10枚1億円で売れた画家」になるんですね。その実績のある画家の絵は、値段が上がるんです。

── 売り切れ状態になって価値が上がるわけですね。

大川直也 
そう。「あいつの絵は1億円で売れる」ってなると、画家さんの場合はすごい上がって、1億円以上の値段がつくようになるんです。そうすると何ができるかっていうと、自分で10枚1億円、10億円出して買っておいて、その画家のバリューを上げておいてそれをそのまま手放すっていうことをやっているみたいなんですね。これは僕も、聞いた話ではあるので、細かいニュアンスに誤りはあるかもしれません。

── うんうん。

大川直也 
株とかじゃ絶対にNGな行為なんですけど。でも絵画だとそれが許されているから、投資として使われちゃうんですね。でも別にこれは美術をやる人間として間違ってるとは思わないし、否定する気もないんですけど、あまりにもなところはあって。

── うん。

大川直也 
僕は実際、そこに興味がなくて。それこそ好きなアーティストを挙げていけばバスキアとかバンクシーとか…ああいう人たちって、今でこそ、そういう遊びに使われますけど、もともとはそれに反抗するためのものだったんです。だからそういうふうに自分が食っていくために美術家が自分の価値をどんどん上げていく中で、僕はそれをひたすら下げたいです。わかりますか? そのために4,800円という値段をつけているんで、僕に怒っている人がいたら説明しといてください!

会場
(笑)。

── 本当はいくらなんですか? 怒ってる人たちは、いくらが妥当だと?

大川直也 
「20枚限定、10万とか」で売ってたりするんですよ。僕、全部20枚限定で売ってるんですけど。「10倍20倍の値段をつけないと君の美術家としての価値が下がるよ」みたいなことを言ってくれる人もいますね。

── 安くしていっちゃうと「後輩たちもその値段でやらなきゃいけなくなる」とか、「業界全体の価値を上げるためにみんなでやってかなきゃいけないのにお前だけ安いとそうならんやろ」みたいなのはないんですか。

大川直也 
それで言うと、誰も食えてないんですよ。20代の写真家で、広告・雑誌・CDジャケットとかの仕事をしないでアート写真家として食えてる人間は、少なくとも僕は思い当たらないです。

── へー。20代はひとりもいない。

大川直也 
それこそ本当に有名な杉本博司さんっていう写真家がいて、そういうレベルにならないとアートをやって食ってくことはできないですね。特に写真は。画家さんや彫刻家の方は、パトロンがついたりするんです。

── うんうん。

大川直也 
でも写真家は難しい。だったら自分の手元で作品を作って、それを売ることで生活ができるフォーマットがあったほうが僕はいいと思っています。

── これに対して冬湖さんはどうですか?

塩入冬湖 
去年か今年のはじめにその話を大川さんとしたんですよ。大川さんがこの個展が始まる前くらいにホームページで書いていたのを読んだ方はわかると思うんですけど。

塩入冬湖 
生活の中にアートって本当にないですよね。音楽は、本当に世の中に溢れているんですよね。それも、値段のついたものとして。身近なものとして音楽は捉えられていると思うんです。

大川さんが言っていたようにアートや写真作品って、私の中で、家に飾るのはハードルが高いイメージが植え付けられていたんです。私も正直、自分で絵を買う、写真を買う、という経験は、なかったんですよ。でも生活の中に欲しくなる瞬間ってあるじゃないですか。

そのときに15万円、20万円のものをその場で買って、また別に額を買って家に飾れるかっていうと、20代30代でそんなことできる人なんてものすごく少ないと思うんですよね。だから低価格で売ることが、何か新しい動きをつくっていくんじゃないかなって私はすごく思いますね。

大川直也 
ありがたい話です。ぴったり1時間です。

2020年にやりたいこと

── 最後に、2020年は、こんなことやりたいなってのはありますか?

大川直也 
来年いろいろありますよ。

塩入冬湖 
来年はもう。いろいろですよ。来年はね、いろいろ…。

── たぶん言っちゃダメなやつですよね(笑)。

塩入冬湖 
やりたいことはすべて大川さんに伝えて、やれるように準備はしています。意味わからない時期にツアーをしてみたり。

大川直也 
なんでいつも意味わかんない時期にツアーするんですか(笑)。

── イチリスナーとして思うんですけど、まず、「DVDのツアーでリキッドルーム行く?」っていうのがあるんですよ(笑)。

会場
(笑)。

── ふつうはフルアルバムが出て、「大きなライブハウスに挑戦!」みたいな感じじゃないですか。誰が決めてるんですか? 冬湖さんが変なんですか?(笑)。

塩入冬湖 
…やれるときにやっておいたほうがいいから。

── そりゃ本当にそうですね(笑)。

塩入冬湖 
自分たちでツアーを組むという感覚すら、去年までなかったので。

── 去年(2018年)そういう感覚が芽生えた?

塩入冬湖 
去年、『BI』ツアーでようやくそういうことを知って。だからホント、大切なことを教えてくれないんです。それで今年も、自分たちでワンマンツアーというものを企ててみたいなと思って。DVDが出る話はもともとあったので、じゃあDVDのリリースツアーにするのがちょうどいいんじゃないかということになって。誰も異議を唱えなかったんですけど。それを発表してみたら、「あんまり聞かないよね?」みたいな(声が多数出てきた)。

会場
(笑)。

塩入冬湖 
「発表する前に言えよ!」って思ったんですけど。

会場
(笑)。

大川直也 
いや、言ってるはずですけどね、誰かしらが(笑)。

塩入冬湖 
大川さんがよく写真を送ってくれるんです。「これを作り始めたよ」とか。「BI」っていう曲のMVは、「映像を見て、そこから曲を作る」っていう初めての試みだったんですけど、それは念願だったことで。ずっとやりたいことだったんです。

で、2019年は、大川さんが送ってくれた写真があって、それがすごく美しかったんで、『惚けて』というソロアルバムの「波に惚けて」という曲…。この曲は、その写真のイメージを切り取ったものでつくった曲なんです。

会場
へー!

塩入冬湖 
そうなんです。なので、音楽をつくるときに、自発的に自分から何かを欲するのではなく、何かを得て、そこから次に届けていくことがもっとできたらいいなと思います、来年は。

── 何かからインスピレーションをもらって、そこから曲をつくるっていう。へー。

大川直也 
2020年にやれたらいいですよね。

── やれそうだったらまたお知らせしましょう。

大川直也 
僕としては、僕はMVを撮るんですけど。今、そのチームを編成しています。スタッフさんとか優秀な技術者たちとコンタクトを取っています。ビデオを撮るときって、写真と比べ物にならないくらいたくさんの人が関わることになるので、そういうスタッフさんとチームをつくろうとしているんですね。そのチームで、MVを撮りたいです。

── チーム体制で。

大川直也 
そう。つくったチームで、MVを撮りたい。ジャケットはもちろんご依頼いただける限りはやります。…あと、FINLANDS展はホントにやりたいですね。

塩入冬湖 
そうですね、やりたいですね。来年の制作が終わったらやりましょうぜひ。やらせてください。

大川直也 
やりましょう。冬湖さん、しゃべり足りなくないですか?

塩入冬湖 
全然!

会場
(笑)。

大川直也 
入口付近に販売している作品の実物もありますので。ぜひ見ていってください。すごくこだわってプリントしてます。

▼大川直也作品は公式販売サイト「鯨と骨」で販売中
https://boneofawhale.thebase.in/

── 一周見てから机の上で見ると全然違うので、ぜひそこも見て欲しいですね。

大川直也 
あと来年は、写真集をつくります。

── ほう。来年はこの個展は?

大川直也 
ああ、来年もやりましょう! トークイベントも3やりますので。

塩入冬湖 
あはは(笑)。年を追うごとにしゃべることに慣れていくので。

【おわり】

▼大川直也作品は公式販売サイト「鯨と骨」で販売中
https://boneofawhale.thebase.in/

▼FINLANDS公式サイト
http://finlands.pepper.jp/

お金の限界が見えつつある世界で。または文化の時代について

「金が正義」という経済の時代の終わりが本格的に見えてきたことによって、ビジネスや広告を主軸に働く人でさえも、「文化の時代」を意識し始めた。 文化とは“人の心の集積”である。「人の心」とは、愛、美意識、信念、矜持、

志村正彦を愛した皆様へ

あれから5年が経った。記憶を整理するのに5年という月日はきりがよくてちょうどいい。 僕にとってもそれは、悲しみを、悲しみとして告白できるくらいにしてくれる時間であった。 正直に言うと毎年この季節になると、志村について

185,000字で書く、andymoriのすべて(1/6)

アンディモリの原稿を書かせてもらうことにした。 もともと、アンディモリについてはいつか書きたいと思ってはいたのだ。けれど、彼らの作品に触れたことがある人には分かってもらえると思うが、彼らの楽曲はあまりに難解で複雑だ。